隣を歩く武史に何度も言い出そうと口を開いた。
でも…
武史の優しい横顔を見るたびに何も言えずに口を閉じた。
…言えない
だって、
何ですぐ言わなかったんだって言われたら?
自分を守るために言えなかった事を知ったら…
関先輩は
あたしを嫌いになるかもしれない…
もう優しい笑顔を向けてくれないかもしれない…
そう思うと梓は武史に言い出せなかった。
「関先輩、ごめんなさい…
あたし用事があったの思い出しちゃって…」
気まずそうに言った梓を見て武史が笑う。
「なんだ(笑)
だから様子が変だったんだ。
いいよ、そんなの気にしないで。
その代わり、また今度付き合って?」
優しく笑う武史に梓はうなづいた。
駅前で武史と別れる。
笑顔で小さく手を振る武史に梓はうまく笑えなかった。
関先輩に
嘘をついた…
その事が梓の表情を強ばらせていた。
罪悪感を感じながら梓は先を急ぐ。
着いたのは…
大きな門の前。
まるで何かの施設のような大きな建物は…
亮の家だった。
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