お好み焼き屋に向かう途中に武史の昔の彼女のことを少しだけ聞いた。


中学3年の時に付き合った人は高校2年の人で花火大会で逆ナンされたらしい。


高校1年の時に付き合った人は大学1年の人で武史の学園祭に来たときにやっぱり逆ナン。


どっちとも半年ほどの付き合いで
女からの積極的な態度に武史も好意を持ち始めて
付き合った。


「でも結局、『なんか物足りない』とか『友達のほうがよかった』とか…

二人とも同じような理由で振られちゃったけどね。


女心って本当に難しいな(笑)」


最後に武史はそう言って笑った。



「でもその人たちとは今も友達だよ」


梓は
きっと武史の人柄のよさが
そうさせるんだろうと思い微笑んだ。



そんな柔らかな空気が流れていた時

梓の耳に聞き覚えのある声が飛び込んできた。



「や、マジでマジで(笑)

ホントに可愛いんだって!」



全身の神経がその声に反応する。


声のするほうにゆっくりと目を向けると

そこには真也の姿があった…



髪を明るく染めて

高校の学ランを着てはいるが

あの頃と変わらない笑顔がそこにあった。




梓の…
 


好きだった笑顔。



…今まで会ったことなんかなかったのに


同じ所に住んでれば会うこともあることは予想していた。


でも覚悟を決めてから今まで会ったことがなかったから
近くに住んでてもそんなもんなんだと安心していたところだった。



…なんで今さら…



ゆっくりと真也の横を通り過ぎる。


笑顔は変わらないが…

梓の心にもうときめくものはなかった。


真也の顔を見ても嫌悪感しか感じない。



そんな自分が少しうれしかった。




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