誰も苦しんでない人なんていないのかもしれない。
みんな悩みを抱えて頑張ってるんだ。
彼氏ができたからって奈緒の苦しみが取れるはずなんてなかったんだ…
あたしは
なんて浅はかだったんだろ…
梓は奈緒の事を考えて少し落ち込んだ。
自分に向けられる奈緒の笑顔の裏には
自分の知らない色んな想いがあるように思えた。
中学一年の事件の直後、
本当に学校中が奈緒の噂で持ちきりだった。
「水谷さんが振った男がやったんだって」
「なんかすごいひどい振り方したらしいよ~」
「なんか少し自業自得だよね」
「ってゆうかよく普通に学校来られるよね」
「神経疑っちゃう(笑)」
クラスの違う梓の耳にもひどい陰口や噂は流れ込んできていた。
そんな中で、
離れていった友達に何を言うわけでもなく
1人で背筋を伸ばしている奈緒の姿は
とても印象的で…
今でも梓の頭から離れない。
ただ単に「強い子なんだなぁ」と思っていた自分が情けなかった。
高校に入ってクラスが一緒になって梓が話しかけた時
奈緒はきれいに笑っていた。
でもそれは、梓の思っていたような強い笑顔ではなかった。
一緒にいてもいつも微笑んでいて…
事件の事も何も言わない。
悩み事の一つも相談しない奈緒にその時の梓は少しイライラしていた。
自分は奈緒に必要とされていない気がして…
だけど…
今考えると…
奈緒はきっと恐かったんだ。
1人きりになるのが…。
だからあたしに嫌われないようにいつでもあたしの話に笑ってたんだ。
事件の事を言わなかったのは…
中学のときみたいに1人にされたくなかったから。
あんな噂…
聞き流せるはずがない。
なんでわかってあげられなかったんだろう…
梓は隣で微笑む奈緒を見つめた。
奈緒の笑顔があの頃とは違ってキラキラしていて
…少しだけ安心した。
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