「盛況だね」 小山が暖簾の向こうに目をやって言った。 「ほんとですね。団体客なんて断ればいいのに」 店が賑わうことに不満はないが、この店はいつまでも静かで特別であって欲しいというのが千晶の本音だった。 ふてくされた千晶を見て、小山は小さく笑った。 「おばさん聞こえたぁ?ビール2本!」 再び同じ声が、さっきよりも近くから聞こえた。 千晶は、その声になんとなく聞き覚えがあると思った。 ふと顔を上げると、暖簾を片手で上げた男が、ほろ酔い気味にご機嫌な様子で立っていた。