誰の前でも泣かない。

泣くのは、必ず一人で。



それは、幼い頃から変わらない。


人前では、絶対に泣かない杏樹

唯一人前で泣けたのは、滝本君の前でのみ。




その存在が失くなったら、どうなる?

唯一甘えられた存在を無くしたら…。



私じゃ、滝本君の代わりは出来ないんだ。

もっと甘えて良いのに、弱音を吐いて良いのに。

絶対にそんなそぶりを見せない。





だから


おかしくなったんだ。








「神崎さん、この問題解いて」

「……はい。」


杏樹が席を立ち、黒板の前まで行く。


数学の応用問題



チラッと問題を見ただけで、スラスラと解いていく。