「なぁ、今日は仕事で遅くなるって言ったろ?」

顔に飛沫が飛んでも構うことなく、兄さんは静かに続ける。


「う、嘘つくな!」

彼女と楽しそうに話してたじゃないか!

あれのどこが仕事なんだよ、バカ兄貴!


「?何が嘘なんだ。
 嘘なんか一つもついてないぞ?
 一人でカレー食べたのがそんなに淋しかったのか?
 それで怒ってるのか?」

「違う!
 そんなことで今更怒るわけないだろ!」

「じゃあなんだ?」


疑問いっぱいの視線を向けてくる兄さん。

シャワーで濡れた長い睫毛が瞬きで動いて、色……っぽい。




「み…見たんだよ!
 昼頃、駅のあの店で女の人といるとこ!」


言ったと同時に思い出してしまった、大人な二人の雰囲気。

悔しい。

何故かわからないけど、悔しくて仕方ない。

そして、その悔しさと同じくらい悲しい。


オレはシャワーに打たれながら、涙が零れそうな目で兄さんを見た。

すると兄さんは気まずそうに視線を泳がせ、






「……見てたのか、アサヒ」


ため息混じりにそう言った。




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