オレは抱えていたクッションをボフッと鈍い音を立ててソファーに置くと、兄さんの顔を見ないように横を通り過ぎようとした。

今は一刻も早く、兄さんから離れたかったから。


――――――ところが。




「アサヒ、待ちなさい」

通り過ぎようとしたオレの腕を、兄さんがやんわりと掴む。


「どうした?
 何を怒ってるんだ?」


わざと背けた顔を覗き込むようにして、優しく問いかけてくる兄さん。

でも、それがますますオレの苛々を煽った。


オレはキッと兄さんを睨み上げ、


「何も怒ってねぇし!
 風呂行くから離せよ!!」

腕を掴む兄さんの手を乱暴に振り解いた。


そのオレの行為に、兄さんの表情が曇る。


「アサヒ……?」

オレを悲しそうに見下ろす兄さんの視線を断ち切って、わざと足音を立てながら風呂場へ向かった。


「オレのカレーは?」

背中にかかる兄さんの声に、




(自分でしろ、バーカ!)


と、オレは心の中で叫んだ。




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