「え?」

オレはその言葉に驚いて、太一が見ている方向に目をやった。


そこは、本屋のちょうど向かい側にある、先月オープンしたばかりの喫茶店。

ケーキが旨いと評判らしく、オープン当初から兄さんに「行こう」としきりに誘われているが、甘いものが苦手なオレは何かと理由を付けて断り続けていた。


その店内に設けられた席の一つに、兄さんがいた。




「一緒にいる人、滅茶苦茶キレーじゃね!?」

興奮気味の太一の言葉を聞きながら、オレは兄さんの向かいに座る女の人に釘付けになった。


長い髪に、遠目でもわかるくらいに白く、透き通った肌。

何を話しているのか、二人は楽しそうに笑っている。




「いいなぁ」

「何がだよ。
 何か食ってることがか?」

「それもまぁそうだけどよ。
 なんつーの?
 大人な恋愛的な雰囲気がさぁ」


大人な、恋愛……


「なぁアサヒ。
 あの女の人、兄ちゃんの彼女なのか?」


彼女……っ。


「ンなこと知らねえよ!」

「急に何怒ってんだよ?」

「お前がくだらないこと言うからだろ、この万年赤点野郎!」

「く、くだらないって……
 ただ兄ちゃんの恋人かどうか聞いただけじゃねーかよ!」

「それがくだらないって言ってんだよ!」

「オイオイ、止めろよお前ら」

「帰る!」

「帰る……って、参考書どうすんだよ、おぃ、アサヒ――!!」




冷静にこの場所に来た目的を告げる裕也の声を背中に聞きながら、オレは人混みの中を来た方向へと進んだ。


今さっき見た光景と太一の言ったことが、頭の中をグルグルと回っていた。




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