「わかった!」
至近距離で大声を出す太一に、オレは顔を歪めた。
「今度は何だよ?」
「彼女ができたら兄ちゃんが悲しむと思って、毎回告られても断ってんだな!?」
「ぶふっ!!」
(どんな理由だよ、それ!!)
そうツッコもうと思ったが、強ち間違ってはいないので、止めた。
別に、兄さんのために我慢してるとかじゃないけど……
その“山本”とかいう奴に告白された時、兄さんの嬉しそうな顔が頭に浮かんだんだ。
―――アサヒがいないと俺、寂しくて死んじゃうかも。
―――彼女いないんだなーと思ってさ。
(……………)
兄さんがオレにこんなこと言うなんて、太一達に知れたらどうなるか……。
「クク、アサヒの兄ちゃんどんだけブラコンなんだよっ」
腹を抱えて笑っている裕也。
その横で、太一も何やらニヤニヤしている。
「所詮お前も兄ちゃんと同じだな」
「オレはブラコンじゃねぇ!」
額から流れる冷や汗をタオルで拭い、オレは足早に本屋に向かった。
「おい、今行くのはさすがに気まずくねーか?」
「……なんでだよ」
「いや、だってまだ山本が……」
やっと笑いが収まった裕也が、眉間に皺を寄せてオレを引き止める。
「そんなこと知るかよ。
オレは参考書を見に来たんだ」
お構い無しに再び歩き始めるオレを、
「おい、アサヒ!」
今度は太一が引き止める。
「何だよ、うるせぇな」
「あそこにいるの、アサヒの兄ちゃんじゃね?」
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