そんなあたしの態度に呆れたのか、頭上で小さくため息がもらされて。刹那、強まった隼人の腕の力に、何事かと視線だけ上に向けた。


「……らしくねーんだよ、こんなの。もう大丈夫だから、そろそろ落ち着けって。な?」


そして紡がれた言葉に、あたしの頭は一瞬機能を停止した。もちろん、この瞬間は流れていた涙も止まって。

隼人が発した「大丈夫」という言葉が数日前の記憶を呼び戻し、氷室さんの言葉と綺麗に重なる。

“だから、大丈夫だよ”

あの時はその言葉に、氷室さんの笑みに、そこはかとなく安堵したけれど。

今は、違う。

目の前に居るのは、あたしを抱きしめているのは、氷室さんじゃなくて隼人。

そう思考が到達するとともに、現実に意識が引き戻された。あの時の氷室さんの笑みが鮮明に脳内に映し出され、一旦止まりかけた涙が再び流れ落ちた。