『―――…ガタ』



ケータイの向こうで物音がした。


浅井の言葉に答えずに泣いていたみのりが

ようやく口を開く。



「…浅…井さん?」


『……』


返事をしない浅井に不安になり

みのりがケータイを持ち直す。



「浅井さん?」


2度目の呼びかけにも反応しない浅井にみのりの不安が募っていく。



…なに?


浅井さん…?


「浅井さん?!

浅…」






「…なんだよ」







――――…







浅井の声と同時に…


大好きな匂いに包まれた。





背中に大好きな人のぬくもりを感じた。




息を切らした浅井が…


みのりを後ろから抱きしめていた。



びっくりして涙が止まったみのりが

震える口を開く。




「…なん…で?」


浅井が息を整えながら笑う。


「…防犯カメラに映ってた。

丸見え(笑)」



まだ少し呼吸の荒い浅井が

みのりを抱きしめる腕に力をこめる。





浅井の腕の強さに…


甘く響く声に…


タバコの匂いに…



止まっていたはずの
みのりの涙が溢れ出す。





「…だ…め…

無理…なの…」





いくら好きでも…



一緒にいたくても…



もう



無理なんだよ…




「…オレも無理。


言ったよな…?


もう離さないって…」



みのりの手からケータイがすり抜けて地面に落ちた。




…だめだよ。


だめ…



触れたら…


もう…離れられない。




だから…




みのりの震える手が…

浅井の腕に触れようとして…





止まる…





.