美香が隣にいるのに

みのりの胸は騒がしく動いていた。




…緊張する



お礼言うだけなのに…




みのり達が2階に着くと
すぐに予鈴が鳴り、


浅井が頭をかきながら部屋のドアを開けて出てきた。



久しぶりの浅井の姿に
みのりの心臓がさっきよりも早く動きだす。




「浅井さん」


声をかけたのは美香だった。



「あれ、なんだよ。

おまえ達」


笑顔を向ける浅井に

みのりが口を開く。



「卒業試験受かったんで…

お礼を言いに…」


「義理堅いな(笑)

いいのに、別に」




…やっぱり


好き…



笑いかける笑顔に
みのりは浅井の顔を食い入るように見つめていた。



そして



気づいた。





みのりに向けられた笑顔と同じ笑顔が

美香にも向けられている事に…






「じゃあ安全運転しろよ」


そう言う浅井に美香が手を振りながら言う。



「それも建て前でしょ(笑)?」









―――…







浅井からいつか聞いた言葉を思い出す…




『本音と建て前』





…なんだ


そうだよね…




『あたしだけ』な訳ない…


みんな…


あたしも…『生徒』だもんね。



浅井さんは『先生』だもんね…






…よかった



告白しなくて…



みのりは美香の隣で
浅井に少し微笑んで手を振った。




笑えているか


自信はなかった。






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