『お父さんに面倒くさがられて、嫌われたら……』
さっきの市川の言葉が……頭から離れようとしない。
ずっと、不思議ではあった。
まだ16なのに、いくら親に言われたからって、あんなボロい寮に住むか、とか。
いくら仕事が忙しいからって学校に子供預けたりするのか、とか。
暴力を振るような男と、なんで別れないのか、とか……。
その疑問が、さっきの市川の言葉で少し解けた気がした。
母親が出て行ったのを、自分が嫌われたからだって思ってる市川。
きっとそれからずっと、置いていかれる事とか離れていかれる事とか、嫌われる事に過敏になってて……。
それを怖がる気持ちが、父親の放任を許して、男の暴力を許して……、
関係にしがみついてる。
普段の市川の姿からは想像もできねぇけど……。
だけど、今俺の背中にいる市川は、臆病で、弱くて、泣き虫で……必死に家族と、周りと繋がろうとしてる。
夜、電気を消すと、クローゼットの隙間から必ず光が漏れてくる。
それは市川がまだ起きてる証拠。
テレビもない部屋で何してんのかずっと不思議だったけど……。
思い当たった答えに、眉を潜めた。
『ちゃんと頑張るしかないんだもん……』
その言葉が示している答え。
勉強、か。
成績を下げて父親に迷惑を掛けないように、毎日遅くまで勉強してたのか……。
……父親に嫌われたくなくて。
たった、それだけの思いで。
俺は、伏せた視線をそのままに小さくため息を落とす。
痛いほどに一途な市川の思いに、胸がひどく痛んでいて……話す言葉も見つけられなかった。
肩にしがみつく市川に、俺は支える腕に力を込めた。