「……好きだよ」


強い口調になったのは、自信のなさの表れだった。


啓太の事が本気で好きかどうかなんて……自分ですら、よく分からない。

自信を持って好きだなんて……、言えない。


だけど、あんなところを見られて『分からない』なんて言えなかった。


浮気されてるのを知りながらも付き合って

何でもないような事で殴られても許して……。


あたしの今している事は、啓太を好きって理由がなくちゃ成り立たない。


好きじゃないって認めたら……、本当に自分が惨めになりそうで怖かった。


「……―――っ」


黙っている矢野に視線を上げると、腕を振り上げた矢野の姿が目に映って……反射的に目を瞑った。

そして……


「……?」


ぺち、と小さな音を立てた全然痛くない平手が、あたしの左頬に触れた。

ぎゅっと瞑っていた目を開けると、あたしの頬に手を当てたままの矢野がいて……じっとあたしを見つめていた。


「どんな理由があったってな、女を殴るような男は最低だ。……それだけ覚えとけ」

「……」


そう言った後、少しの間あたしを見て、矢野が触れていた手を下す。

矢野が背中を向けて部屋に入って行った後も……矢野の真剣な顔が、あたしの中から離れようとしなかった。


殴られていないハズの左頬が、なんでだか、痛かった。

啓太に叩かれた時よりもずっと……


胸が軋むように痛かった。