「うるせぇなっ! ほっとけよ!!」

「あ、啓太……」


怒鳴りつけて階段を下りていこうとする啓太に気付いて、その後を追おうと足を踏み出す。

だけど……、


「……っ」


後ろから少し強い力で掴まれた腕が、それを止めた。

振り返ると……悲しそうな、怒ったような……真剣な顔をした矢野が、あたしの腕を掴んでいた。


矢野の目をまっすぐに見られなくて……あたしは目を逸らす。

気まずい空気に何か話題を探そうとしても、掴まれた腕に、軽くはぐらかす事は許されない気がして……

何も言えずに俯いた。


「いつからだ?」


聞いた事のないような、矢野の低く真剣な声が問う。


「付き合ってるのは中3の3月から……。

殴られるようになったのは……その4ヵ月後くらいから」

「もう1年も殴られてんのか?」

「……」


その問い掛けに答える事は少しためらわれて……、黙ったまま静かに頷いた。


「……あんな奴が好きなのか?」

「……」


次にぶつけられた疑問にも、答えられず小さく頷くだけのあたしに、矢野は再度疑問を言葉にする。


「それ、本気で言ってんのか?」


いつもの矢野なら、決して踏み込んでこない領域。

あんな場面を見たらきっと誰でもそう聞きたくなるのは分かるけど……。


痛いところばかりをついてくる矢野に、あたしは唇を噛みしめた。