「おまえの後輩、長い間返せなくて悪かったって気にしてた。

……おまえ、随分古いとこ住んでんだな」


さっきまでの啓太が気になりながらも、普通に交わせる会話が嬉しくて笑顔が自然と浮かんでくる。


「うん。……啓太、時間ある……?」


『寄っていかない?』

本当に言いたかった言葉は言えずに、少し遠回りの言葉を選んだ。

啓太にこんな風に気遣うようになったのは、もうかなり前からで。

あたしなりに、この関係に慣れた証拠なのかもしれない。


少し怯えながら見つめる先で、啓太が目を逸らす。


「……友達と約束あるから」

「……」


それだけ言うと、あたしを素通りして階段を下り始める。


『友達』

その言葉に、こないだの知らない女の子の顔が浮かんできて……。


「友達って……女の子?」


気付いた時には、そんな疑問が言葉になってた。


いつもなら決して口にしない言葉に、啓太の足が静かに止まる。

そして身体半分だけ振り向くと、面倒くさそうに口を開いた。


「おまえには関係ないだろ」


啓太の目はとても冷め切っていて……。

まるであたしなんか要らないって言っているみたいに見える啓太の目に、あたしの中に溜まっていた不安や孤独感が溢れ出す。


家から帰ったきたばかりの状況も、それを手伝ったのかもしれない。