寮に着いて階段を上がったところで、部屋の前にある人影に気付いた。

それが誰だか気付いて、一瞬言葉を失うほどにびっくりして。


だけど、そんな驚きを超える嬉しさが一気に湧き上がってきてあたしを支配した。


「啓太っ、どうしたの?!」


部屋の前の壁に背中を預けて視線を落としていた啓太が、顔を上げる。

啓太の首からは太目のシルバーチェーンのネックレスが下げられていて、制服もかなり着崩されていた。

……中学の頃の面影は、もうこれっぽっちも感じられない。


「これ、後輩から頼まれただけ」


渡されたのは、中学の頃使っていたスポーツバック。

後輩に貸しっぱなしになっていた物だった。


「あ、ありがと。すっかり忘れてた……。啓太、中学行ったの?」

「ああ。……ちょっと顧問と話しに」

「顧問……?」


なんで今更中学の顧問のところになんか……。

そう思ったけど、言葉を呑み込んだ。


それは、あまり深いところまで聞いて啓太を不機嫌にしたくなかったのもあるけど……。

だけど、それ以上にあたしを止めた理由は、啓太の一瞬浮かべた表情だった。


何かマズイ事でも言った後のような……珍しく少しだけ戸惑ったような表情。


あたしの見つめる先で、啓太はその表情を元の無愛想なものへと変える。