【実姫SIDE】


「実姫ー」


翌日の帰りのHRが終わるなり、諒子が後ろからあたしの肩を引っ張った。


「今日カラオケ行こっ! 和馬くんも誘ってさ。部活サボらせて、パーッと騒ごうよ!」

「あー……ごめん。今日家行かなきゃなんだ」


せっかく誘ってくれた諒子に、申し訳なく思いながら顔の前で両手を合わせた。

そして、1ヵ月ぶりに家への帰り道を歩く。



『毎月月末に生活費を用意しておくから、取りに寄るように』

寮に入る当日さえ、顔を合わせなかったお父さん。

代わりに、置き手紙がそう言っていた。


寮の家賃は、催促されないところを見るとお父さんが払ってくれてるみたいだし、朝晩は食事出るし。

毎日のお昼を500円に抑えて……月に15000円。

その他にペットボトル代とか、シャンプーとか……余裕だと思ってたけど、結構ぎりぎりかも。


指折り数えながら、あたしは小さなため息をついた。


「やめよ……」


今後の生活の事なんか考えて、うっかり切なくなりそうになった頭を途中で止める。

無理矢理お金の事やら家の事情やらを頭から振り落とすと……なぜだか昨日の矢野との会話が思い起こされた。