「ああ、見た見た。ごめんね、返さなくて。色々忙しくて」


苦笑いを浮かべながら適当に返した言葉に、和馬の表情が険しくなる。


「……実姫、その目どうしたんだよ。もしかして、また田宮に何かされたんじゃ……」

「違うって。ドラマ見て泣いただけ。和馬は心配しすぎだよ」


和馬の言葉に、自然に見えるように目を逸らす。

そしてさっき矢野にしたいい訳と同じ言葉で、和馬を誤魔化した。


和馬も、啓太の浮気現場には何度も遭遇していて、あたしがたまに腫らしてる頬の理由も知ってる。

鈍感なくせに、そんなとこばっかりやけに鋭い和馬に、仕方なく打ち明けたのは、ほんの2ヵ月前。


「いい加減別れろよ。なんであんな奴と付き合ってんだよ」


まだ真剣な表情を向けてくる和馬の瞳が、胸に刺さるようで……目を伏せながら笑う。


「なんでだろうね……」


別に答えを誤魔化した訳じゃなかった。

自分でも、正直その理由はよく分からない。


なんで、啓太と別れられないのか。

別れる事を怖がるのか……。


楽しかった思い出だけを支えにして付き合うのは……正直、もうつらくなってた。

どうしょうもなくつらい時にあたしを救ってくれたのは啓太だったけど……、

今、あたしの気持ちを落ち込ませてるのも啓太で。


それでも別れたくないって思う自分が、自分でもよく分からない。

だけど……啓太と別れた自分は、想像できなくて。


どうしたらいいのか分からない。