「実姫……」


隣から聞こえているハズの諒子の声が、やけに遠くから聞こえる。

隣から感じているハズの諒子の視線が……あたしを通り越していくみたいだった。


自分の存在が、まるで透明にでもなったみたいに、身体がふわふわして現実味がなくて……。

でも、固まって動けない。



啓太を追いかけて、『この子誰?』なんて聞く……?

一瞬だけ浮かんだ考えを、左頬の痛みが止める。


どうせまた殴られるもん……

明日も学校なのに、腫れたら……まずいもん。


バレたら、まずいもん。


……逃げの言葉ばかりが頭に浮かぶ。


本当は……『浮気』は、他の子じゃなくて、あたしなんじゃないかな……。

っていうか、あたしなんか浮気にも入らないかも……。


月に1度とかした会わないし、会ったって手も繋がない。

時間つぶしに付き合わされるだけ。


こんなの……付き合ってるなんて言えない。

言えないよ――――……



それでも、怖い。

啓太の口から、別れを告げられるのが、怖い。


なんで?

なんでこうなっちゃったの?


あたし何も悪い事してないよね?


お母さんが出て行ってからも……啓太が優しくしてくれたから頑張れたのに……

今度は啓太も……。


なんで……?

なんで―――……



黙って啓太の後姿を見つめるしか出来ないあたしの肩を、諒子がぎゅっと抱き締めた。