「もういいや」
『誕生日忘れられたくらい』
そう続けようとした時……。
「なにが?」
クローゼットのドアを開けた先生が、あたしの言葉を止めた。
「……なんでもない。せめてノックしてよ」
「あー……今度からな」
悪びれない先生を横目に時計を見ると、18時15分。
いつもなら20時を軽く回って帰宅する先生に、あたしは首を傾げた。
「今日は仕事もういいの?」
「ああ。もう昌じぃ……じゃねぇや、校長もだいぶ落ち着いたしな。
……それに、今日は特別な日だし」
にっと笑みを浮かべた先生は、あたしのベッドに上がってあぐらをかく。
そして、手招きしてあたしをベッドに上がらせると、向かい合うようにして座らせた。
「もうみんなに誕生日祝ってもらった?」
先生の口から出た言葉に、びっくりして聞き返す。
「え、知ってたの?」
「当たり前だろ? 彼女の誕生日くらい普通知ってるだろ」
「だって……、朝会っても何も言わなかったじゃんっ」
戸惑いながら聞くと、先生は『ああ』と笑いながらあたしの手を握った。
伝わってくるぬくもりが、未だに緊張する。



