「市川っ」


ノックもしないで入ってきた先生に、びっくりして振り返った。

珍しくきちんとドアから入ってきた先生が、少し表情を歪めながらあたしの部屋にずかずかと上がり込む。


「おまえ一人で逃げんじゃねぇよ。

馬場先生帰らせるの大変だった……、

……市川?」


顔を俯かせたまま抱きついたあたしに、先生の不思議そうな声が降って来る。


「なんだよ。……あ、馬場先生にやきもち妬いたんだろ」

「……」


何も答えないでいると、先生は諦めたようにため息を落として……あたしの背中に腕を回す。


片手ではあたしの頭を撫でてくれて。

そんな先生に嬉しさが膨らむあたしは、先生の胸に顔を埋めた。


当たり前の抱き合える事が

当たり前に笑い合える事が、嬉しくて堪らない。


先生の背中に回した腕にギュッと力を込めて、それを実感していると……。


先生はあたしの頭を撫でていた手を止めた。