「矢野先生?」

「あー……すみません。

昨日、床で寝ちゃって風邪引いたみたいで……悪いんですけど、今日休むって伝えてもらえますか?

仕事はほとんど片付けてあるんで」


ドアの向こうにいる馬場先生に話しながらも、先生の片手はあたしの髪を弄ぶ。

くすぐったいような感覚に先生の胸を軽く押すと、先生は意地悪に笑みを作った。


「……っ」


エスカレートした先生の意地悪な指が、あたしの耳の辺りを撫でる。

ゆっくりとじらすようなその動きに、先生を睨むように見上げた時、馬場先生の声が聞こえた。


「それはいいですけど……大丈夫ですか?

あ、私、帰りも寄りますから何か欲しい物があったら……」

「気を使ってもらわなくても大丈夫です。

ここ、食事も出るんで。……でも、ありがとうございます」


馬場先生と会話を交わしながらも、あたしの反応を楽しむように耳や首筋をなぞる先生の指。


小さく竦んだ身体に恥ずかしくなって、先生の手を掴んで無言の抗議を目で伝える。


あたしのそんな抗議を理解しながらも、先生はそれを無視した言葉を、あたしの耳に直接吹き込む。