馬場先生と間違えて、あたしを抱き締めたの……?


馬場先生と間違えて、好きだなんて言ったの……?



震え出す身体に、涙が零れる。


溢れ出して止まりそうもない涙に、部屋に戻ろうとして……ドアノブを握ったところで、足が止まった。



この場所で……

この廊下で、先生に抱き締めてもらった事を思い出す。



涙が止まるまでずっと、抱き締めてくれた事。

両思いになったのもこの場所で。

和馬にやきもちを妬いてくれたのも、ここでだった。


幸せな思い出ばかりが頭に浮かんできて……

でも、それを、馬場先生の声が打ち消していく。



入った事のない、先生の部屋から聞こえる馬場先生の声。

二人きりでいる先生の部屋。


その部屋の隣の部屋でなんか……、過ごせるハズがなかった。



あたしはその日、寮に入ってから、初めて実家に帰った。


お父さんのいない家で、一人きりで溢れる涙を堪えるのに必死だった。