「好きだ……」


呟くように耳元で言われた言葉に、時間が止まりそうになって……

でも、それを止めたのは、一緒にいた馬場先生の言葉だった。


「もう、矢野先生ってば……ごめんね、酔ってて相手を間違えてるのかも」

「……間違えてるって、誰と……?」


自然と出てしまった疑問にはっとして……でも、馬場先生はなぜだか嬉しそうに表情を崩した。

そして、あたしの聞きたくない言葉を向ける。


「えっと……よく分からないんだけど、矢野先生、居酒屋さんで、私の事じっと見たり髪触ったりしてて……」

「……馬場先生と、あたしを……間違えたって事ですか……?」

「そうなる、のかな……? 

あー、もう、矢野先生、いい加減離れて下さい、もー……」


嬉しそうに頬を緩ませる馬場先生が、あたしに抱きついたまま止まっている先生を離す。

お酒が回ったせいか、先生は半分寝ちゃってるみたいにふらふらして、何も言わなかった。


馬場先生の言葉が、あたしの胸を締め付けたままで……

息苦しさが身体を襲う。


「矢野先生っ、着きましたよ。

あ、あなた、ありがとね。もう大丈夫だから」


あたしを廊下に残して、先生の部屋のドアが閉められた。


先生と馬場先生の姿が、ドアの向こうに消える。