「……大丈夫か?」

「うん……ごめんなさい」


先生と視線を合わせないために目を伏せる。

でも、視線の先には、Yシャツに包まれた先生の身体があって……。


あたしを、抱きつきたいっていう衝動が襲う。


そんな衝動を振り切るように、きゅっと口を結んで先生の横を通り抜ける。


別れてから、初めての近距離。

そんな状態に、本音を隠す事に限界を感じて逃げるように足を進めた。


「……市川っ」


寮から足を踏み出した時、後から強く呼び止められて……。

少しだけ戸惑いながら振り返る。


「なに……?」

「……あんまり遅くなるなよ」


振り返ったあたしの視界に入り込んできたのは……、先生の笑顔だった。



久し振りの笑顔に

自分に向けられた先生の笑顔に……

胸が急速に締め付けられるのが分かった。


本当に音が聞こえてきそうなほどに強く、強く―――……


少しだけ困ったような、ぎこちない笑顔が、余計にあたしの胸を苦しくさせる。


「……うん」


それだけ頷くのがやっとなくらいに、どこまでも、苦しかった。