【実姫SIDE】
高校に入って二度目の夏休み。
先生の授業がなくなるのは、ほっとした反面、やっぱり寂しかった。
無条件で聞ける、先生の数式を説明する声。
無条件で見つめられる、黒板に向かう先生の後ろ姿。
それは、もう見つめる事が出来なくなったあたしにとっては、大切な時間だったから。
今まであんな近くにいたのに、授業を受けているだけで、ドキドキしてた。
それだけで、嬉しかった。
それだけで、胸が苦しかった。
別れたからじゃなくて、好きだから。
先生が好きだから。
だから……嬉しくて、苦しい。
夏休みでも、規則正しく食事を用意してくれる中村さんには、正直苦笑いどころじゃない。
おかげで、いつもと同じように朝晩7時に食事。
……ありえない。
先生は、夏休みだからって休める訳でもないみたいで、いつも通り学校に行っていた。
先生のいない日中の寮は、やけに静まり返っていて、落ち着かない。
静けさが、余計に寂しさを強調させてきてしまう気がして、あたしは何かと気分を紛らわせる事に一生懸命だった。