「……ごめん」

「実姫が悪いんじゃないよ。……でもやっぱり啓太くんは許せないっ。

あー……もう!! あたしが10発くらい殴ってやりたいっ!!」


大声で怒る諒子の声が廊下中に響き渡って……通りがかる生徒から集まる視線が熱い。


ところどころから聞こえてくるひそひそ話は、どうやら諒子への不良疑惑みたいだった。

『普通に見えるのにね……』なんて言葉が聞こえてきて、あたしと諒子は、そんな声に顔を合わせて吹き出す。

そして、熱い視線の束から逃げるように教室へと向かった。


教室にはもうほとんどの生徒が登校してきていて、あたし達が席に着くのと同時くらいにチャイムが鳴り、担任が姿を見せた。


「えー……今年一年このクラスを受け持つ事になった……」


当たりでも外れでもなさそうな先生の挨拶を半分だけ頭に入れながら、教室をざっと見渡す。

半分くらいの知ってる顔に安心して、あたしはゆっくりと視線を戻す。


教卓を見ると自然に視界に入ってくる、斜め前に座る男子の横顔。

髪型や背格好が、なんとなく中学の頃の啓太を思い出させて……あたしは目を伏せた。


治ったハズの頬が、痛い。