「矢野センは、それでいいのかよ。

俺だってバカじゃないから、分かる。

矢野センは、まだ実姫の事っ……」

「これ、市川にやって」


清水の言葉を遮ると、清水は納得いかない表情で俺を見て、片手を差し出す。

その上で握っていた手を広げると、淡いピンク色した結晶が、清水の手のひらへと落ちた。


「なんだよ。これ」

「……ただの飴」


痛み止め、なんて言いながら市川にやった飴。


何の効果もないって事を知りながらも、いつも呆れたような笑顔を返す市川の姿が脳裏に浮かぶ。


『好きだ』

もう、伝えられない想いの詰まった飴が、

ピンクのパッケージの中で転がっていた。




市川の選択は、正しい。

あの日から、何度も自分自身に言い聞かせていた。


そうしないと、足が、勝手に走り出しそうだった。

腕が、勝手に市川を抱き寄せそうだった。


正しいのに……

分かってんのに……



俺の目が、市川の笑顔を求めてる。

俺の耳が、市川の意地っ張りな言葉を求めてる。

俺の腕が……

胸が……


俺、全部が……、


市川を求めてやまない―――……



教師としても

恋人としても


俺は最低だ。