「矢野セン?」


片手で目の辺りを覆うようにして椅子に身体を預けていた俺に、清水が不思議そうに声をかけた。

その声に、椅子から立ち上がり、食器を片付ける。


「……俺、あいつに振られたんだよ」

「……は?」

「もともと、あっちゃいけない関係だったんだから……、こうなって当然だけどな」


背中を向けたまま言うと、後ろから清水の弱々しい声が聞こえてくる。


「……嘘だろ? だって……、なんで……」

「清水。

勝手だって分かってて頼むけど……市川の事、支えてやってくれよ。

ちゃんと……、笑わせてやって」



あんな、嘘の笑顔じゃなくて。

あんな、痛々しい笑顔じゃなくて。


あれじゃ……、田宮の時と同じだ。


本当は、こんな事、他の男になんか頼みたくない。

例え、清水相手でも。


そんな風に思うのは、俺の中にある強い独占欲が原因なんだろうけど。


未だに離したくないなんて強く思ってる感情を抑えつける事が、俺にできる唯一の努力の気がした。


涙を流して切り出してくれた市川を追いかけない事だけが、俺にできる唯一の―――……



背中越しに言った言葉に、清水は黙って……

歪めた顔を俯かせた。