「なんだよ。実姫から呼び出しなんて珍しいじゃん」


まだ誰も登校していない朝の教室に、和馬の明るい声が響いた。

7時50分。


朝練のない一般の生徒が登校してくるには、まだ20分近く余裕がある。

その時間をわざと指定した。


「……なんかあった?」


なかなか話を切り出さないあたしに、和馬が心配そうに声をかけた。

朝のこの時間でも、夏の太陽は眩しいほどの日差しに暑さを乗せて校舎を照らしていた。


梅雨明けしたおかげで、カラっとした暑さの教室。

和馬に視線を合わせてから、笑って見せた。


「和馬、付き合うフリ、やっぱりもういいよ。

ありがとね」

「え、なんで?」


キョトンとした表情で真っ直ぐに見つめてくる和馬に、精一杯の笑顔を作る。

泣きすぎて重たくなった目も、一晩冷やし続けたおかげで、和馬にもバレないくらいに治まっていた。


「もう大丈夫になったから」

「は?」

「和馬もさ、あたしなんかにいつまでも構ってると、他の女の子から相手にされなくなっちゃうよ?

もう17なんだし、和馬もちょっとは遊んだりしなよ。

和馬は知らないかもしれないけど、和馬はモテるんだよ?

なのに、あたしなんか……」

「実姫」


和馬から目を逸らしたままペラペラと続けるあたしを、和馬が止めた。

呼ばれた名前に、あたしは笑顔を少し残したまま俯く。