「実姫、おはよ」
初夏の清々しくも暑い太陽が照らす中。
寮の前で待っていた和馬の姿に、あたしは戸惑って表情を歪めた。
「おはよ……どうしたの?」
「いや、先週の事もあるし一緒に行った方がいいかと思って。
ラブラブっぷりをアピール作戦?」
ははっと笑う和馬に、あたしは思い出した気持ちに申し訳なくなって笑えなかった。
そんなあたしのおでこを和馬が弾く。
「やめろよなー、そういう顔。
俺、今まで通りって言ったろ? 実姫がそんなんじゃ気まずいじゃん」
無理しているかどうかも分からないほどの和馬の笑顔に、あたしはおでこを押さえながら笑みを零す。
「じゃあ、彼氏に……じゃなかった。わんこにエスコートしてもらおうかな」
「……いくらなんでももうちっと気を使えよ。おかしいだろ、振った男をわんこ呼ばわり……」
「気、使ったよ? 犬じゃなくて、可愛らしくわんこって言ったじゃん」
「……なんか違うけどな」
2人で並んで、グランド脇の通学路に合流する。
突き抜けるような青空を見上げながら歩いていると、隣の和馬がやけに静かな事に気付いた。
表情を覗いてみると、さっきまで笑顔を浮かべていたハズの和馬はそれを陰らせていて……不思議になって声をかけた。