「そういや、ちゃんと飯食べたか?
中村さんが用意してくれるのは朝晩だけだからな?」
中村さんっていうのは、あたしがここに来た時に一番最初に会ったおばさんの事。
あの人が、寮の食事の担当者であって、責任者らしい。
「……ダイエット中だからいらない」
「おまえ太ってないし必要ないだろ。むしろもうちょっと太れよ。
しょうがねぇなー、とりあえずコレやるよ」
食べられる気分じゃないから嘘をついたのに。
案外お節介なのかも、なんて思いながら、矢野がビニール袋から取り出した栄養補助食品のゼリーを受け取った。
「自分だってこんなの食べてるんじゃん」
受け取ったゼリーに思わず笑うと、そんなあたしとは対照的に、矢野の表情から笑顔が消えた。
じっと、見つめられて……その視線が左頬に向けられている事に気付いて、顔を背けた。
「おまえ、それ……どうしたんだよ」
「なんでもない。……これ、ありがとっ」
逃げ込むように部屋に入ると、まだ高い位置にある太陽の光が、部屋の窓から差し込んでいた。
朝散らかしたままの服がベッドや床に落ちていて……そんな光景に自然とため息が漏れた。
楽しみにしてたのにな……。
左頬を痺れさせる痛みを感じながら、部屋に散らばる洋服を片付ける。
拾い集めた服をクローゼットの下の段のチェストに戻そうとして……隣の部屋の矢野が気になって諦めた。



