「あ、おかえり」


重たい気持ちのまま寮のドアを開けると、市川の明るい声が俺を迎え入れた。


「……ただいま」

「今日カレーだよ。中村さんが、先生の大盛りにしてくれたよ」

「あー……味の薄いさらっさらのカレーな」


市川がくすくす笑いながら冷蔵庫からウーロン茶を取り出す。

そして、2つのコップにそれを注いだ。


「あれ、おまえまだ食べてなかったのかよ」

「え、うん。……だって、先生もすぐ帰るって言ってたから……。

一緒に食べた方がおいしいし……っていうか、中村さんもその方が助かるだろうしっ……

……先生?」


出かかった本音をすぐに隠そうとする市川を、後ろから抱き締める。

市川の戸惑ったような声に、市川の髪に顔を埋めた。



『バラしたら……』

清水の言葉が頭に響く。


最初から……

最初から、一度抱き締めたら離してやれないのは分かってたのに……。


俺の性格は俺が一番よく知ってるから。

一度、距離を縮めたら、もうその距離から手放す事なんか出来ない。


強い独占欲が、絶対にそれを許さない。

だから、それを全部分かってたから気持ちを隠し通すつもりだったのに……。


市川の気持ちを……、


受け入れるべきじゃなかったのに―――……





いっそ、嫌われるように仕組めばよかった。


笑いかけられなければ……、

『嫌い』

そう態度で示してくれれば……、

そうすればまだ諦めもついたのに。



……でも、無理か。

こんなに近くにいるんだから。


いずれ……、気持ちが溢れた。