「んな訳ねぇだろ? なんで市川が俺なんかに惚れんだよ」

「誤魔化すなよ」

「……別に誤魔化してねぇって」


怒っているようにも見える清水の顔に、俺も苦笑いをため息と一緒に吐き出す。

無表情のまま清水を見ていると、清水は少し表情を歪めた後、視線を地面に落とした。


「矢野センは気付いてると思うから言うけど……俺、実姫がずっと好きだった。

……だから分かるんだよ。

実姫が誰を見てるかって事くらい……分かるんだよ」

「……」


伏せられた視線が清水の想いの重さを表しているようで、黙ったまま清水を見ていた。


清水の気持ちには、確かに気付いていた。


体育の授業中、市川が貧血を起こした時からずっと。

その気持ちが、軽いものじゃない事にも……気付いていた。


清水が本気だって事が分かってるから、だから、軽くあしらうような事はしたくない。


だけど、俺と市川の関係をここで素直に言えるほど、怖いもの知らずでも世間知らずでもない。


小さな罪悪感だとか、正義感だとか……

そんなものの為に、市川との関係を危なくするような、そんな事は―――……。


清水がゆっくりと視線を俺に向ける。

そして、俺と目が合うなり、すぐにまた目を逸らした。