【矢野SIDE】


市川から預かったマーカーを職員室に返した後、学校を後にした。

教頭に言われた事は、正直、不条理で頭にきたし、怒りも覚えた。


だけど……

自分以上に怒ってくれた市川のおかげで、自分でも不思議なくらい気持ちが落ち着いていた。


7月の空はまだ少し明るくて、きれいな夕暮れのオレンジを映し出していた。

グランド脇を抜けて寮の敷地に入った時。

寮の入り口の前に生徒の姿を見つけて、立ち止まる。


「……清水?」


俺の声に反応した生徒が、俯かせていた顔を上げる。

予想通りの顔にほっとする俺に、清水は極めて真面目な表情を向けた。


「ちょっと話があるんだけど……」


清水の態度に小さく息をついてから首を捻る。

いつもに増して真剣な清水の表情は、あまりいい話ではない予感を感じさせた。


「……なんだよ」

「実姫の好きな奴って……矢野センだろ?」


真っ直ぐに俺を見据えたまま言った清水の一言に、俺は一瞬言葉を失って……すぐに苦笑いを浮かべて見せた。