余計な事だったのは、承知の上だった。

だけど、どうしても嫌だったんだ。


……市川の強がった笑顔を見るのは。


あんなに健気に頑張ってるのに、その思いが報われないままなんて……嫌だったんだ。


俺の背中で、一度だけ見せた涙。

父親に嫌われたくない一心で見せた、涙。


もう……あんな風に泣くところは、見たくなかった。


いくら俺が助けたくても、市川がずっと悩んでる事は、あの父親にしか解決できない。

『家族』にしか……、出来ない。



俺がどんなに手を伸ばしたって、そこには届かない。


だったらせめて―――……



「……なんて、過保護だな、俺」


苦笑いを零してから、星空に止まっていた足を再び進め始める。

……市川のいる、寮に向けて。