to.市川実姫
sub.Re
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別にモテねぇよ。

帰ったらかまってやるから
やきもち妬いてないで

大人しく待ってろ。

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市川にメールを返して、ケータイを閉じた時。

ふと、昨日の市川との会話が頭を過ぎった。


以前に聞いた、市川の家の町名。

確かこの辺だった気がして、なんとなく通り過ぎる家の表札を確認しながら歩く。


住宅街っていう名称が相応しい、何十軒もの家が立ち並ぶ中で市川の家を見つけるなんて、まず不可能に思えた。

大体、ちゃんとした住所だって知らないし、ただこの辺っていう情報しか持ってないのに、表札頼りに家探しなんてまず無理だろ。


……そんな風に思っていた時だった。


表札を意識していた俺の目に、「市川」と彫られた石の表札が映った。


「……まじ?」


信じられない表札の文字をまじまじと見つめた後、その家を見上げる。

立派な佇まい(たたずまい)に、市川の父親が市会議員を務めている事を思い出した。



見事に見つけてしまった事に戸惑いながら、玄関に目を向ける。


電気一つついていない大きな家は、不気味にも思える。

こんな暗い家で、1年以上もほとんど1人で過ごしてきた市川を思うと……胸が軋んだ。


1人で過ごす市川の姿を想像しただけで、ひどく胸が痛んだ。


1人の孤独さは、よく知っていたから。