でも……、思い当たる節はいくつかあった。


以前、寮にきた啓太があたしにキスしようとした時、あたしは殴られるのかと思って身体を竦めた。

それを見た啓太は……少し傷付いたような顔をしていた気がする。


球技大会の日、

『……本当はまだ別れたくないんだろ』


そう言った啓太の目は真剣で。

まるであたしを頷かせようとしているみたいだった。


他の女の子と遊んでるのに、なんであたしと別れないのか、いつも不思議だった。

イライラするだけなら、連絡なんかしないで放っとけばいいのにって……、不思議だった。

余計な事言ったって、わずらわせるような事言ったって、啓太は忘れる事なく、あたしに連絡してきてた。


……でも、だからと言って啓太があたしを必要としていたとも思わないけど。

そんな簡単に……信じたりは出来ない。


あたしと啓太の間にあった信頼関係は、もうかなり前に壊れている事なんかよく分かってる。

一度失った信頼なんて……、そんな事を知ったくらいじゃ回復なんかしない。


「……和馬はお人よしだよね。それ聞いて、全部信じたんでしょ」


冷静を装った声とは裏腹に、心臓がドクドクと速いリズムで動いていた。

信じちゃいけないって思うのに……なんでだか反応している胸が、すごく苦しい。


「まー……実姫は信じられないかもしれないよな。

でも……俺は、嘘言ってるようには見えなかった。

きっと、実姫が離れていって、自分を見つめ直す機会が出来て……それで走り出したんじゃないかって思うし」

「……別にもういいよ。もう……啓太の事は関係ないし」