カチャカチャと陶器のお皿とスプーンがぶつかる音だけが響いていた時……寮のドアが開いた。



「あー……清水だっけ」


入ってきた先生が、和馬に気付いて少し首を傾げながら記憶を辿る。

そして思い出せた名前に、ほっとした様子で口を開いた。


「……ああ。矢野セン仕事? それとも、女?」

「あ……?」


和馬が返した言葉に、先生はもちろん、あたしも驚いて和馬を見た。

ふざけてるのかとも思ったけど、和馬は真面目な顔をしていて。

からかっているようには見えなかった。


普段温厚な和馬がこんな事を言い出すなんて信じられなくて、あたしの視線は和馬を捕らえたまま動かすことができなかった。

そんなあたしの視線の先で、和馬が鋭い視線を先生に向けていた。


「女だったら20時過ぎになんか帰ってくる訳ねぇだろ」


和馬に見据えられた先生が、ふっと笑みを零しながら軽いトーンで返事を返す。

冷蔵庫からペットボトルを出した先生を目で追っていると、振り返った先生と不意に視線がぶつかって……。

先生は和馬にバレないように口の端を上げて笑って見せた。


そんな先生に、余裕なんてないあたしは慌てて目を逸らしてオムライスを頬張った。


和馬は、再び頬杖をついたまま黙ってしまって……その表情は何かを考えてるみたいだった。

やっぱりおかしい和馬の態度は、吉岡さんの事だけが理由じゃない気がして。

あたしは覗きこむようにして和馬と視線を合わせた。