いつ帰ってきてもきれいにされている部屋は、最初こそ違和感があったものの、よくよく考えてみれば当たり前だった。

掃除が苦手だったお母さんと、そのDNAを見事に受け継いだあたし。

昔から家の中で一番整理されている部屋は、お父さんの部屋だった。


小さい頃から、ずっとお母さんが掃除をしてきたこの家。

お母さんがいなくなってからは、あたしが週に1度とか半月に一度とか……掃除とは呼べないような簡単な片付けをしてたけど。


そんなあたしにお父さんは文句は言わなかったけど、キレイ好きなお父さんが納得していない事くらいあたしも分かってた。

忙しいハズなのに、あたしがいた時よりもずっとキレイに掃除されている部屋や玄関。

今の家の状態の方が、お父さんにとっては住みやすいのかな、なんて考えが頭を過ぎって、あたしを落ち込ませる。

あたしがいない方が……なんて。


豪快に散らばった自分の靴が目に入って、苦笑いを零した。



「あ、どこ行ってたんだよ」


家を出てから、腑に落ちない生活費の事を考えたりしながら、ゆっくり帰ってきた。

そんなあたしを寮の前で待っていたのは、和馬。

大きなスポーツバックを斜めに掛けた和馬が、少しむすっとした表情をあたしに向けていた。


「……何か約束してたっけ?」

「……約束してなくても、せっかく幼なじみが会いに来てんだからせめてもっと優しい言葉をかけろよ」


苦笑いする和馬に、あたしは笑って寮の入り口を開ける。


「待たせちゃった? ごめんね」

「よく言うよ。思ってもないくせに」

「あ、失礼な言い方。少しは思ってるよ。

それに優しい言葉をかけろって言ったのは和馬じゃん」

「それでかよ。ったく、実姫は本当に……」


ドアを開けると、寮の中から夕食のいい匂いが香ってきて、19時を過ぎている事を教えていた。