「……女除けする前に、茶髪なんとかすればいいのに」

「あー……これ、地毛だし」

「嘘ばっかり。根元黒いじゃん」

「……随分反抗的だな。教師の質問に答えないで生意気な事ばっかり言って」


余裕を全面に纏いながら言う先生に、あたしは口を尖らせる。

さっきからからかわれてる気がして、なんだか悔しい。


「……その『教師』が女子生徒の部屋に忍び込んで何やってるの?」


悔し紛れに出た言葉に、先生は口許を緩ませて、はっと笑みを零した。

片手で、目にかかりそうな前髪をかき上げて笑う先生の姿に、あたしは思わず目を逸らす。


「減らず口だな」


先生の口から出たのは、決して愛の言葉なんかじゃないのに。

先生の笑顔に胸が締め付けられて……、喉の奥の方が苦しくなった。


トクトクと鳴り出した胸を押さえながらも、ゆっくりと顔を上げると……優しい色を浮かべた先生の目と視線が重なった。


「……つぅか、女子生徒じゃなくて、彼女、だろ?

振り出しに戻すなよ」


先生の優しい笑顔に、

気持ちを伝えてくれる言葉に……どうしょうもなく、苦しくなる。


さっきのなんか比べ物にならないくらいに、熱くて苦しくて……何かが湧き上がるような、そんな感じがあたしを内側から襲う。

それは涙に形を変えて外へと出てきそうなほど。


俯いてぐっと目の奥から溢れ出ようとする涙を抑えていると……俯いた先に、無造作に床に置かれた先生の指輪が光った。