まだ梅雨の明け切らない7月の校舎は少し蒸し暑くて、冷たい床が気持ちよかった。

コツコツと誰かが階段を上ってくる音が聞こえて、座り込んだままだったあたし達は慌てて立ち上がる。


そんな様子に、諒子と2人で顔を合わせて笑った。



「それよりさ、問題は和馬くんだよね」


階段を上がってきた数人の女子が、笑い声を上げながら通り過ぎる。

それを横目に見ながら諒子が言った言葉に、顔をしかめた。


「正直に言った方がいいかな……」

「いや、矢野センの名前出すのはまずいでしょ。

……なんか矢野センに殴りかかりそう」


諒子の言葉に、和馬が先生に殴りかかる様子がやけにリアルに頭に浮かぶ。


『教師が生徒に手出してんじゃねぇっ!!』

そんな事を言いながら先生に掴みかかる和馬の姿に、苦笑いを零す。


「好きな人ができたって事だけ話そうかな……。

そんな雰囲気になった時に、それとなく刺激しないように」

「そうだね。なるべくさらーっと、軽く流す感じで、下手に刺激しないように……って、和馬くんすっごい危険人物みたいだし。

……ある意味そうだけど」

「……ある意味ね」


2人して苦笑いしかできない中、教室に足を進める。



少しだけ、和馬に申し訳なく思いながらも、やっぱり先生の名前を出す事には抵抗があった。

自分でもまだ信じられないような出来事は、言葉にしようとしてもふわふわとして逃げていく。