『守りたい』

強く思った事と、昨日の自分の行動はあまりに矛盾しているように思えて……やたらと心臓のあたりが痛い。


俺自身が、市川を苦しませる原因になるのは……、きっと必須。

それが分かってるからこそ、軋むように身体ん中が痛かった。



同時に存在する、二つの真逆の感情。

譲れない、二つの感情。


複雑な考えばかりが頭を駆け巡って、止まりそうもなかった。



「……先生? なにしてるの?」


その声にはっとして振り向くと、不思議そうに俺を見る市川の姿があって。

今までの考えを追い出して、市川に笑顔を向ける。


「いや、市川が冷蔵庫の中に変なもん詰め込んでねぇかチェックしてたとこ」

「……小姑みたい」


俺の嘘に小さく笑った後、市川は棚からカップを二つ取り出して紅茶を入れる。

当たり前に俺の分まで用意する市川に、柄にもなく嬉しくなって……誤魔化すように小さな咳払いをしてから、椅子に座った。


「……はい」

「珍しいな。いつもは文句ばっか言ってようやく俺の分いれるくせに」

「……別に深い意味はないもん」

「へぇ……?」

「本当にないんだってばっ! ……~~もういいっ! もう入れてあげないっ」


素直に受け取るのが照れくさくて言った俺の言葉に、市川は過敏に反応して顔を赤く染める。

怒った顔をしながらパンを頬張る市川を見てると、自然と笑いが込み上げてきて、さっきまで堂々巡りしてた考えが消えていく。


「怒んなよ。俺市川がいれる紅茶好きだし」

「……」

「市川が入れた紅茶っていうより、このティーパックの味が好きなんだけど。……どこのメーカーだ? これ」


真っ直ぐに戻った機嫌をまた傾けた市川に、笑う。

食堂を、柔らかい紅茶の香りが包み込んでいた。