深呼吸するように大きく息を吸い込んでから、目の前のドアを開けた。
今日は、いつもの古びた廊下や階段の手すりさえも新鮮に見える。
単純な自分に呆れながらもドアを閉めて鍵をかけた時……、隣のドアが開いた。
「……―――っ」
スーツを片手に持ったYシャツ姿の先生が姿を現して、あたしの心拍数を飛び上がらせる。
「あ、……おはよ……うございます」
何か言わなくちゃ。
そう思って言った言葉は、なんだか変なイントネーション。
用意してなかった声はいつもより少し高めになってしまって、あたしは口を押さえた。
「……」
でも、何も言わない先生を不思議に思って、チラッと先生に視線を移す。
まだ寝ぼけてるのかも。そんな考えに呆れながら先生を見ると、先生と視線がぶつかった。
「……っ」
じっと見下ろしてくる先生に肩を竦ませると、先生は口の端を上げて笑みを作って。
片手であたしを抱き寄せると、おでこに軽くキスをした。
そして、そのキスに何も言えなくなったあたしに、余裕の笑顔を向ける。