啓太は近付くあたしに気付きながらも、そこから動こうとはしないで、あたしをじっと見つめてた。
本当にじっと。
さっきまでの軽い笑みを浮かべた顔を一転させて、すごく真面目な顔で。
そして、あたしが啓太の目の前で止まったのを確認してから、あたしに視線を落としたまま再び口を開いた。
「……それとも、おまえ、まだ俺が好きとか?」
「……」
「おまえ、俺の言う事なら何でも聞いてたもんな。どこに来いとか、何時に来いとか。全部俺の言いなり。
……本当はまだ別れたくないんだろ」
なんで啓太がこんなに真面目な表情をあたしに向けるのかは分からなかったけど……啓太の言葉に、あたしの中で何かが切れた。
ずっと、我慢してきた自分になのか、
それとも、それを強要した啓太になのか……。
今までの啓太からの仕打ちが頭をいっぱいにして、あたしを怒りだけが支配した。
そして――――……
パン、と音を立てて、あたしの手の平が啓太の頬を捕えた。
一瞬だけ驚いて……でも、すぐに睨みつけてきた啓太を、あたしは睨み返す。
「おまえ、いい度胸してんなぁ……」
ニヤリと気味の悪い笑みを浮かべる啓太に少しだけ怯みながらも、啓太から目を逸らさなかった。
今まで逸らしてきた目。
目を逸らしてきた事実。
もう、そこから逃げたくなかった。
「今まで啓太の言うこと聞いてたのはっ……啓太が好きだったからだよ。
中学の時優しくしてくれたから……でも、もう好きじゃない。
暴力振るう男なんて、最低だよ」
身体が震えるのは、怒りでなのか恐怖でなのかよく分からない。
じんじんと熱を帯び始めた右手の手の平を、ギュッと握り締める。
睨み上げる先で、啓太の表情が変わっていって……そして、手が振り上げられる。



