「矢野セン、頑張れー!!」


見ていた生徒から声が上がって、何気なく視線をギャラリーに移した時だった。


「……――― 」


20人ほど集まるギャラリーの中に、市川の姿を見つけた。

身長も平均的だし、髪色だってみんな似たか寄ったかなのに……。

一瞬で見つけ出してしまった存在に、またしても苦笑いを逃がした。


後ろの方で試合も見ずに少し俯いている市川に、今朝の言葉が浮かんだ。



『うん……ありがと、先生』


遠慮がちな笑顔。


市川の頭ん中を、今もあいつが支配してると思うと……収まり切らないほどの苛立ちが襲う。


『教師と生徒』

そんな理由を全部壊して、市川に手を伸ばしたくなる。


自分で突き放したくせに……市川を振り向かせたくなる。

顔を上げて俺を見てろ、なんて、バカな考えが頭に浮かぶ。


頭ん中のあいつじゃなくて、今、目の前にいる俺を……なんて。



「あー……くだらねぇな、俺」

「ああ、膝にぶつけられてたしな。だっせぇよな」


隣にいた生徒に言われて、少しだけ頭にきてた時、試合終了の笛が鳴った。



勝負は俺のチームの勝ち。

戦利品は……すげぇくだらねぇ嫉妬。


全然勝った気なんてしない試合内容に、またひとつため息が落ちる。