生徒が黙ったところで、コートから出て外野に回る。

もう4人が外野を守ってるのを見ると、俺は特に必要ないように見えて、後ろの方で試合を眺めていた。


不意にさっきの生徒の言葉が頭を過ぎって……誰にもばれないように小さな苦笑いを浮かべる。


『誰見てたんだよ?』

咄嗟に誤魔化した答え。


本当に見ていた人物が誰なのかなんて言える訳がなくて。


他の先生に様子を見てくるように頼まれたのは事実だった。

けど……体育館を覗いた瞬間に見つけてしまった市川の姿に、思わず視線が止まって。


でもほんの一瞬だったのに。

誰が見てるか分かんねぇもんだな……。

気をつけねぇと。


そんな事を思いながらも、頭の中には朝の市川の様子が浮かんでいた。


今朝の、ケータイを気にする市川の様子が。

振動し続けるケータイに向けられた、市川の怯えるような表情。


その表情に、あいつへの苛立ちすら覚えていた。

別れた今でも市川を怯えさせる存在。

あいつに何度も市川が殴られたり、傷つけられたって考えるだけで怒りが湧き上がる。


怒りと同時に、市川を守りたいっていう強い想いが浮かび上がる。

だけど……