【矢野SIDE】
生徒に誘われたドッチボールの試合。
1人欠席が出たって事で、きゅうきょ飛び入り参加する事になった。
って言っても1試合だけの助っ人。
次の試合は、また違う教師が入るらしい。
「矢野セン、スーパーシュートして」
「なんだよ、それ。つぅか、シュートって種目間違えてんだろ。ドッチボールでどこにシュートすんだよ」
軽い会話をしながら、長方形のスペースの中を動き回る。
久し振りに動かす身体は思ったよりもスムーズに動いて、学生に戻ったような気分にさせられる。
「矢野セーン」
相手チームの生徒に呼ばれて振り向くと、ボールを持った生徒とは違う奴が俺に話し掛けてきた。
「矢野センさー、さっき体育館覗き見してたろー。誰見てたんだよ?」
「……あ? やべ……おまえ、それ卑怯だろ」
一瞬言葉を失った俺の膝辺りにボールがぶつかって、苦笑いを零した。
そんな俺に、生徒がにかっと笑う。
「気を抜いた矢野センが悪いんだよ。でも本当に覗いてたじゃん。何見てたんだよ」
「うるせぇな。……おまえが期待してるような事じゃねぇよ。プログラムから少し遅れてるから様子見てこいって他の先生から言われただけ」
「なんだー……てっきり矢野セン、エロ心から覗きを……」
「おまえ達と違って、俺はもう思春期でも何でもねぇんだから覗きなんかする訳ねぇだろ」
「あ、ひでー! その言い方だとまるで俺が覗きしてるみたいじゃん!!」
「……先週の小テストで隣の女子の答案カンニングしたの誰だっけなぁ」
「……覗きの意味が違うだろ。それにそれはもう謝った上に罰掃除までしたじゃん! 蒸し返すなよなー」