「あ……」


食堂に下りると、既に先生の姿がそこにあって、思わず小さな声を漏らした。


「……早いね」

「あ? ああ。球技大会だからな」

「先生出ないじゃん」


少しずつ、以前のように会話ができるようになってきた。

気持ちに気付く前みたいに、笑えるようになってきた。


複雑な想いは胸に滞り続けるけど、話せなくなるより、気まずくなるよりずっといい。


あの日のキスの事も、それに関係する事も……不自然なほどに口にしなかった。

あたしも……、先生も。


ヴー……

ヴー……



椅子に座ったところで、テーブルに置いたケータイが再び震え出す。

一瞬だけサブディスプレイを確認して……通信回路の先にいる人物に、それを見つめたまま動かなかった。


ケータイを見つめたままのあたしに、先生が不思議そうに眉を潜める。


「出ねぇの? 電話だろ?」

「……うん」


少しだけ笑顔を浮かべて頷くも、先生はまだ表情を歪ませたままで。

でも、あたしをじっと見つめた後、それを少し険しいものへと変えた。


「……あいつか?」

「……」


あたしに真面目な顔を向ける先生に、コクンと頷く。


ヴー……

ヴー……


静かな食堂に、ケータイの振動が気味悪く響く。

あまりに長い着信は、本当に恐怖の対象でしかなかった。


怒ってる啓太の顔を思い浮かべると、殴られそうで自然と身体が強張る。